Ian Carr’s Nucleus

Nucleus 活動期間1969.10-1989
 英ジャズ・シーンの重鎮Ian Carrが1969年に結成したジャズ・ロック・グループ。Karl JenkinsChris Speddingら当時新進気鋭のジャズ/ロック・ミュージシャンを擁して佳作アルバム多数を残した。Soft Machineと人脈的なつながりが多く、カンタベリー・シーンとも密接な関係を持つ。

 Don Redellとの双頭グループThe Don Redell Ian Carr Quintetで活動していたCarrは69年秋、新鋭や進歩派らとの対外活動を経て新たな方向性を模索。共演を通して知り合ったGraham Collier SextetのKarl JenkinsとJohn Marshall、共演多数で周知のJeff Clyneらをスカウト、70年3月にアルバム「Elastic Rock」でデビューを飾る。

 Vertigoからリリースされた同作は欧州、北米でも高い評価を受け、後のプログレッシヴ・ロック/ジャズ・ロック・シーンに大きな影響を与える傑作となった。好評を受けて同じ方向性の2ndアルバム「We’ll Talk About It Later」を早いスパンでリリース。3作目の「Solar Plexus」は、レギュラーメンバーに加えて多くのゲストミュージシャンを迎えて制作された。

 しかし、皮肉にも作曲や演奏面で才覚を発揮してバンドをけん引するJenkinsのアーティストとしての成長がバンド内のバランスや均衡を崩すことに。様々なジャズ・ロックのフォーマット・実験場としての当初のグループ・コンセプトからかい離離しつつあったことから、Carrは一時活動を白紙に戻すことに。

Nucleus1 1972年、CarrはJon Hisemanのプロデュースでソロ名義のアルバム「Belladonna」をリリース。本作参加メンバーを軸にNucluesを再始動させる。

 名ミュージシャンを多数擁して70年代中期にはゲスト・シンガーらを迎えてコンセプト作の制作にも挑み、さらに70年代後半にはフュージョン/ファンク路線へとシフトするなど意欲的な活動を続けた。

 1980年代に入ると拠点をドイツや欧州本土に移して演奏活動を継続。音楽評論家としても著名なCarrが執筆や講師などを務めることが多くなったこともあってやや断続的な活動となるが、ライブ活動を継続した。

 80年代末にはCarrソロ名義のアルバム「Old Heartland」をグループで制作するが、その後まもなくして活動を停止した。2000年代に何度かフェスなどでCarr、Geoff CastleやMark Woodら80年代の布陣を中心に再編が実現している。


<albums>
Elastic Rock (Vertigo 6360 008) 1970/3
We’ll Talk About It Later (Vertigo 6360 027) 1970
Solar Plexus (Vertigo 6360 039) 1971
Belladonna (Vertigo 6360 076) 1972 ※Ian Carr
Labyrinth (Vertigo 636 091) 1973
Roots (Vertigo 6360 100) 1973
Under The Sun (Vertigo 6360 110) 1974
Snakehips Etcetera (Vertigo 6360 119) 1975
Alleycat (Vertigo 6360 124) 1975
In Flagrante Delicto (Capitol EST11771) 1977
Out Of The Long Dark (Capitol EST11916) 1979
Awakening (Mood 24 400) 1980 ※Germany
Live (Mood 28 650) 1985 ※Germany
Old Heartland (MMC CDMMC1016) 1988 ※Ian Carr

・その他ライブ音源など
Jazz-London (BBC CN4131/S) 1983 ※The Brian Lemon Quartetとのカップリング
Live In Bremen (Cuneiform RUNE173/174) 2003/5 ※71年5月
The Pretty Redhead (Hux HUX038) 2003 ※71年3月/82年10月
Hemispheres (Hux HUX078) 2006 ※70年3月/71年2月
UK Tour ’76 (Major League MLP13CD) 2006/10 ※76年2月
Live 1970 (Gearbox GB1529) 2014/11 ※with Leon Thomas ※70年6月
Three Of A Kind (Gonzo Multimedia HST268CD) 2015/11 ※83年4月/75年/76年/80年12月
Bracknell Sunshine (Gonzo Multimedia HST267CD) 201682 ※80年7月

・編集盤
Direct Hits (Vertigo 9286 019) 1976

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【参加メンバー】
Ian Carr:trumpet/flugelhorn (1969.10-1989)
Brian Smith:tenor sax/soprano sax/flute (1969.10-1974/1977-1981)
Karl Jenkins:keyboards/oboe/baritone sax (1969.10-1971)
Bernie Holland:guitar (1969.10-12)
Jeff Clyne:bass (1969.10-1971.4)
John Marshall:drums (1969.10-1971/1982-1989)
Chris Spedding:guitar/vocals (1969.12-1971.4)
Roy Babbington:bass (1971.4-1973.5)
Ray Russell:guitar (1971.4-1971.mid?)
Dave MacRae:keyboards (1972-1974)
Gordon Beck:keyboards (1972-1973.3)
Allan Holdsworth:guitar (1972)
Clive Thacker:drums (1972-1974)
Trevor Tomkins:perc (1972-1973.3)
Tony Coe:sax/flute (1972-1973.3)
Jocelyn Pitchen:guitar (1973-1974)
Roger Sutton:bass (1973-1976)
Aureo De Souza:percussion (1973-1974)
Bob Bertles:a-sax/b-sax/flute/clarinet (1974-1976)
Geoff Castle:keyboards (1974-1981/1988-1989)
Ken Shaw:guitar (1974-1976)
Bryan Spring:drums (1974-1975)
Roger Sellers:drums (1975-1981)
Billy Kristian:bass (1977-1979)
Chucho Merchan:bass (1979-1981)
Nic France:drums (1980-1981)
Tim Whitehead:sax (1982-1983)
Joe Hubbard:bass (1982-1983)
Mark Wood:guitar/keyboards (1982-1989)
Charlie Mariano:sax (1983)
Robbie Burns:bass (1983)
Phil Todd:sax (1983-1989)
Dill Katz:bass (1985-1989)
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【メンバー変遷】
#1(1969.10-12)
Ian Carr:tp/flghrn
Brian Smith:sax/fl
Karl Jenkins:key/ob
Bernie Holland:g
Jeff Clyne:b
John Marshall:ds
 Carrは1969年秋、新バンドのメンバー選考をスタート。オリジナル・メンバー全員が同年、Neil ArdleyがDon Rendell、Carrと連名で制作した「Greek Variations & Other Aegean Exercises」のレコーディングに参加していた。Chirs Speddingのみ自身のグループBattered Ornamentsでの仕事が残っていたため合流が遅れ、当初は元BluesologyのBernie Hollandが代役を務めていた。Hollandはこの後、Jody Grindに加入。


#2(1969.12-1971.4)
Ian Carr:tp/flghrn
Brian Smith:sax/fl
Karl Jenkins:key/ob
Chris Spedding:g/vo
Jeff Clyne:b
John Marshall:ds
 Speddingが合流してオリジナル・メンバーが揃い、1970年1月にデビュー・アルバム「Elastic Rock」をレコーディング。変形ジャケットとなったデザインはRoger Deanが担当している。本作は欧州、北米などでも好セールスを記録した。作曲や演奏面でJenkinsの才能が一気に開花。好評を受けて70年9月には早くも2ndアルバム「We’ll Talk About It Later」を制作している。


#2a(1970.12)
Ian Carr:tp/flghrn
Brian Smith:sax/fl
Karl Jenkins:key/ob
Chris Spedding:g/vo
Jeff Clyne:b
John Marshall:ds
※Harry Beckett:tp/flghrn
※Tony Roberts:sax/cl
※Chris Karan:perc
※Keith Winter:synth
※Ron Mathewson:b
 さらに同年末にはHarry BeckettやTony Robertsらジャズ系の多彩なゲストを迎えて3rdアルバム「Solar Plexus」を制作。当初からCarrはグループを様々なジャズ・ロックを演奏する「集合体」のような存在にしたいという思いがあったようで、Carrのコンセプチュアルな側面が強い出た作品となった。71年春、ソロやセッションなど多忙になってきたSpeddingが離脱。同時期にClyneも脱退。


#3(1971.4-1971.mid)
Ian Carr:tp/flghrn
Brian Smith:sax/fl
Karl Jenkins:key/ob
Ray Russell:g
Roy Babbington:b
John Marshall:ds
 SpeddingとClyneの後任に名手Ray RussellとRoy Babbingtonが加入。この編成でスタジオ・アルバムは残していないが、後年になってドイツ・ブレーメンで71年5月に行われた貴重なライブが「Live In Bremen」としてリリースされている。しかし、Jenkinsの活躍がバンド内の均衡を崩す結果となり、Carrは一時バンドを解散させている。翌年、Marshall、Jenkinsは相次いでSoft Machineに加入。


#4(1972)
Ian Carr:tp/flghrn
Brian Smith:sax/fl
Dave MacRae:key
Gordon Beck:key
Allan Holdsworth:g
Roy Babbington:b
Clive Thacker:ds
Trevor Tomkins:perc
 SmithとBabbingtonが残り、当時Matching Moleに在籍していたDave MacRaeや元TrinityのClive Thacker、The Don Redell Ian Carr Quintet時代の仲間Trevor Tomkins、名手Gordon Beck、元IgginbottomのAllan Holdsworthが参加して72年7月にCarrのソロ名義のアルバム「Belladonna」を録音。Jon Hisemanがプロデュースを担当した。上記メンバーでNucleusを再始動させたことから、本アルバムは実質的にNucleusの4作目という位置付けとなっている。Holdsworthは本作限りで後にHisemanらとのTempestやSoft Machineなどで活動。


#5(1972-1973)
Ian Carr:tp/flghrn
Brian Smith:sax/fl
Tony Coe:sax/fl
Dave MacRae:key
Gordon Beck:key
Roy Babbington:b
Clive Thacker:ds
Trevor Tomkins:perc
※Norma Winstone:vo
※Tony Levin:ds
※Kenny Wheeler:tp
 73年春にミノタウロス神話を題材したコンセプト作品「Labyrinth」を制作。シンガーのNorman WinstoneをはじめTony Levin、Kenny Wheelerらをゲストに迎え、曲によってレギュラーとゲストを固定せずにレコーディングが行われ、良質なジャズ・ロック作に仕上がった。Babbingtonは直後、Jenkins、Marshallの要請でSoft Machineに参加。


#6(1973-1974)
Ian Carr:tp/flghrn
Brian Smith:sax/fl
Dave MacRae:key
Jocelyn Pitchen:g
Roger Sutton:b
Clive Thacker:ds
Aureo De Souza:perc
 元Riff RaffのベーシストRoger Suttonとパーカッション奏者のAureo De Souza、新ギタリストにJocelyn Pitchenが加入。73年8~9月、シンガーにMacRaeの妻でシンガーのJoy Yatesをゲストに迎えて前作に続きコンセプト志向の強い「Roots」を制作。本作を最後にオリジナル・メンバーのBrian Smithや再編成後のけん引役となったDace MacRae、Clive Thackerらがバンドを離れた。


#7(1974-1975)
Ian Carr:tp/flghrn
Bob Bertles:sax/fl
Geoff Castle:key
Ken Shaw:g
Roger Sutton:b
Bryan Spring:ds
 コンセプチュアルな方向性で良作2作をリリースした後、ギグを見据えてややシンプルな編成へと移行。1974年3月に「Under The Sun」をレコーディング。新たにオーストラリア出身のアルト奏者Bob Bertlesと名ドラマーBryan Spring、キーボードにGraham Collier MusicなどのGeoff Castleが加入、レコーディング途中にギターがKen Shawへのスイッチした。再び大きくメンバーが入れ替わる形となり、サウンド面でもファンキー路線へと変化を見せ始める。


#8(1975-1976) 
Ian Carr:tp/flghrn/key
Bob Bertles:sax/fl
Geoff Castle:key
Ken Shaw:g
Roger Sutton:b
Roger Sellers:ds
 ドラマーがオーストラリア出身のRoger Sellersに交代。前作に続いてそれまでの多彩なゲストを迎えての制作から一転、レギュラーメンバーによるシンプルな編成で「Snakehips Etcetera」と「Alleycat」(Trevor Tomkinsゲスト参加)を制作。両作品ともに再びJon Hisemanがプロデュース。引き続きファンク路線。76年にはNeil Ardleyのアルバム「Kaleidoscope Of Rainbows」に全メンバーがセッション参加した。中期の活動を支えたSuttonに加えてBertles、Shawが脱退。


#9(1977-1979)
Ian Carr:tp/flghrn/key
Brian Smith:sax/fl
Geoff Castle:key
Billy Kristan:b
Roger Sellers:ds
 Brian Smithが復帰し、新ベーシストにBilly Kristanが加入。70年代中期のファンク路線が後退して従来のクールなジャズ・ロックへと回帰。Vertigoとの契約終了に伴い、Capitolに移籍。77年2月ドイツでのライブ録音となる「In Flagrante Delicto」をリリース。さらに同じメンバーで78年11月には再びファンキー色を出した「Out Of The Long Dark」を制作。この頃から活動拠点をドイツなど欧州本土へと移す。Carrを除く4人のメンバーは79年、別バンドStrange Fruitを結成。


#10(1979-1980.early)
Ian Carr:tp/flghrn/key
Brian Smith:sax/fl
Geoff Castle:key
Chucho Merchan:b
Roger Sellers:ds
 ベースがChucho Merchanにチェンジ。Capitolとの契約が終了し、パンクやニューウェーブの台頭などが逆風となって徐々に活動に黄信号が灯りつつあった。Carrは80年代に入ると評論家として執筆や講師などを務める機会が多くなる。


#11(1980-1981)
Ian Carr:tp/flghrn/key
Brian Smith:sax/fl
Geoff Castle:key
Chucho Merchan:b
Nic France:ds
 ドラマーがNic Franceにチェンジして80年9月、アルバム「Awakening」を制作。ドイツのMoodというレーベルからリリースされた。この編成による80年12月のライブが後年にリリースされた未発表ライブをコンパイルした「Three Of A Kind」に収録された。長年に渡ってCarrとともに活動を支えたGeoff Castleが本作限りで離脱。Brian Smithもニュージーランドに帰国した。


#12(1982-1983)
Ian Carr:tp/flghrn/key
Tim Whitehead:sax
Mark Wood:g
Joe Hubbard:b
John Marshall:ds
 Marshallが約10年ぶりに復帰し新布陣となる。82年10月にBBCラジオ用としてレコーディングされた音源が2003年リリースの未発表ライブ音源集「The Pretty Redhead」に3曲収録された。


#13(1983.4)
Ian Carr:tp/flghrn/key
Phil Todd:sax
Charlie Mariano:sax
Robbie Burns:b
Mark Wood:g/key
John Marshall:ds
 その後80年代末までメンバーとして活動するPhil Toddらリード奏者、ベースにに新メンバーを加える。83年4月のレコーディング音源が「Three Of A Kind」(2015年)に2曲収録された。


#14(1985-1987)
Ian Carr:tp/flghrn/key
Phil Todd:sax
Dill Katz:b
Mark Wood:g/synth
John Marshall:ds
 ベースが元Pacific EardrumなどのDill Katzにチェンジ。85年6月のライブを「Live At The Theaterhaus」としてリリース。本作が最後のオリジナル・アルバムとなった。


#15(1988-1989)
Ian Carr:tp/flghrn/key
Phil Todd:sax
Dill Katz:b
Mark Wood:g
Geoff Castle:key/synth
John Marshall:ds
 Carr久々のソロ名義のアルバム「Old Heartland」(88年)を制作。本作のレコーディングにはGeoff Castleも招へいされた。しかし、その後ほどなくして活動を停止した。